吃音を脱したいと、もがいていた頃。
ある専門書の次の文章に目が止まった。
「発声には、呼気、声帯振動、声道調節の3要素が必要であるが、……(中略)……個々の要素が正常でも、これらの連携が円滑に行われていないと声は出ない」(出典:斉田晴仁『声の科学』)
この一文で、声に対する考え方が変わった。
そこから、解剖学や音声学の本を読み漁った。
そして、「声はカラダの動きそのもの」という、シンプルな考え方にたどり着いた。
それまでの僕は、吃音の原因を考えては、いろいろな助言を試していた。
緊張するから吃るんだ。
意識するから吃るんだ。
落ち着いて、ゆっくり話せば大丈夫。
お腹から声を出すようにしゃべればいい。
他にもある。どれも間違いとは言い切れない。
でも、僕には何が必要なのか、分からなかった。
今振り返ると、答えを求めて、得体の知れない指針に翻弄されていた時間が、なんてもったいなかったんだろうと思う。
声の仕組みを学んだことで、僕はひとつの考えに至った。
声を出すために必要なカラダの動きを、忠実に再現できれば、声は必ず出るはずだ。
そう信じて、試行錯誤しながらトレーニング方法を考え始めた。
吃音に悩んでいた頃の僕は、どうすれば言葉が出るのかばかり考えていた。でも、声の仕組みを知ったことで、考える方向が変わった。
吃音をどうにかしたい。
そう思うとき、僕たちは言葉を出すことばかりに意識を向けてしまう。
けれど、声が出るとき、カラダでは何が起きているのだろう?自分の声が、どのような仕組みで生まれているのか。
そこに目を向けることが、僕にとって大きな転機になった。